鉄拳制裁は蜜の味
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結い上げた金のシッポが玄関をくぐるや、距離を一気に詰めて鍵も掛けずにぎゅうと背中から抱きついた。胸の前で両の手を交差させ、閉じ込める。 「誰にでもああいうことしないでよ」 身長差を感じさせて悔しいと、その仕草を兄が嫌っているのを承知のうえで頭の上に顎を乗せた。 「あ? なんだそりゃ」 拗ねているのをわかってか、エドワードは抵抗しない。それどころか甘えるように体重を預けて、二の腕のあたりにつかまってくる。上目遣いに睨むのは日が沈む前には勘弁して欲しい。 今日は新居に引っ越して初めて重なった兄弟揃っての休日だった。午前中は惰眠を貪って、買い物に出たのはもう昼を過ぎてから。はしゃぎながらあれこれと家 具を見て回り、配送を頼んで帰り道、大通りで悲鳴が上がった。女性の声で確かに、泥棒、と。休暇とはいえ軍属の身である。それに、困っている人間を見て 黙っておくことなどできはなしない。 妙齢の女性のバッグを奪った犯人を、暮れ方で賑わう大通りで兄は派手にのしてみせた。映画のワンシーンのような美女とヒーローの組み合わせに当然、注目 が集まる。被害者の女性のノリが随分と良かったのも災いした。衆目の期待と歓声にこたえんと、あろうことかエドワードの頬にキスをしたのだ。 ここで二人が恋に落ちるのが大衆に望まれた物語だとしても、エドワードの隣にはアルフォンスがいる。おとぎ話もラブストーリーも始めさせはしない。にっこり笑って兄をひきずり、犯人を憲兵所に放り投げて家路に着いた。 「別にいいだろうが大したことじゃないし」 「良くないよ。しかもあんな人前で」 というよりも自分の前で、というのがアルフォンスには腹立たしかった。もちろん、見えないところでやられても許すつもりはさらさらない。 「人を節操なしみたいにいうなっ」 エドワードは元よりそう気の長い方ではない。解決は常に拳だ。可愛い弟にもそのルールは余すことなく発揮される。 生身に戻った白い右の腕が上がって、いつまでも絡むアルフォンスの顔面に裏拳が飛び込む。アルフォンスは咄嗟に目をつぶった。 が、衝撃は訪れない。コツンと軽い音が額にぶつかったたけだ。 驚いて目を開けると、目の前には細い銀の指輪。中指にはまったそれが軽く当たったらしい。痛くもないのに、何となく額に手をのせる。拍子抜けしてしまった。 その隙を狙って、エドワードは腕から抜け出す。 「バーカ」 ぼんやりしたままのアルフォンスの片頬に、ちゅ、とキスが落ちる。 「あんまり可愛いやきもち妬くんじゃねえよ」 嬉しそうな兄の声。細めた目が薄暗い玄関でも艶を持って光っている。 「もうっ」 可愛いのはどっちだというのか。 アルフォンスはもう一度兄を羽交い絞めにした。同時に、手加減という文字を捨て去った瞬間でもあった。 |