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 大気の外まで遠く澄み、凍えながらも晴れ渡ってる漆黒の夜の空に、光が咲くのを見つめていた。
「――Happy New Year」
 夜空に上がる冬の花火にともすればかき消えそうな小さな声が、傍らから聞こえてきたので振り仰いでわずかばかりの笑みを返す。
「……上手くいった、みたいだな」
「……そうだね」
 新しい年を迎えるにあたり、カウントダウンのイベントとして、深夜に花火を上げてはどうか。
 中央司令部で持ち上がったそんな企画のただ中で、ここはセントラルシティの郊外を流れる、革の岸辺だ。
 対岸に少し大きな軍部所有の空き地があって、そこに花火の筒が設けられ、先刻――ちょうど時刻が零時を回って、日付が変わった瞬間から花火への点火が始まったところ。
 花火は軍部が手配した職人と軍部の職員たちとの協力によって上げられることになっており、軍部主催の珍しい行事に見物客も多く出ていて、企画はおおむね成功といってよさそうに思われた。
 今夜の企画は、お祭り好きな有志一同で行われている。
 アルフォンスとエドワードはともに非番で、対岸の特等席から新年を祝う花火を見物していられるというわけだ。
 世間の情勢は、国の体勢や軍部の方針が変化してからまだまだかなり不安定であったから、こんな行事の最中に何か有事でも生じようものなら、その際にはエドワードもアルフォンスも直ちに非番を返上しなければならない状況ではあって。
 アルフォンスの囁きは、安堵のしるし――でもあっただろう。
「……花火師の中に、錬金術師はいるのかな?」
 エドワードがなんとはなしに呟くと、
「……姉さん、たら。こんな時にもそんなこと」
 苦笑の後で、優しいキスが降ってきた。
 特等席――とはいうものの、その実二人が居る場所は、アルフォンスが軍部の内部情報からあたりをつけて割り出した穴場で、歓声は遠いところにある。
 光の雨が降る中で。
 少し、くらいなら。
 いい、かな、――と。


 そのキスを、エドワードの方から深くした。
  

「ん……ン!」
 まったくこいつは、甘い顔をするとすぐに調子に乗りやがる。
 アルフォンスのキスの温度が、少しくらい、と思ったエドワードの思惑を軽く凌駕し始めたので、エドワードは少しもがいた。
 ここまでだ、ということならば、それでアルフォンスに伝わるはずであったから。
「んふ……っ、ん、んん……っ」
 キスの合間にこぼれる吐息が、夜気にはっきり白くなる程度に、外気温は下がっていた。
 防寒にしっかり着込んではいても、唇の温かさが心地いいのがなおさらまずいような気がする。
「っ……、ちょ、……た、んまっ、……ァルッ!」
 抵抗は軽く否された。
 いつのまにやら、エドワードはしっかりと弟の両腕に抱きすくめられ、キスはいっそう激しくなる。
「ふっ……ゥ!」
 コートの上から、身体のラインをまさぐる手つき。
 うわっ、うわっ。
 ちょっと待て。
 まさか、この馬鹿。
「ま、てってば! ちょ、あっ……ルフォンスっ!」
 ようやくのことで声を上げれば、アルフォンスから帰ってきたのは、
「……自分で誘ってきたくせに」
「誘ったとかいうんじゃねえよこの木瓜が! ンなわけあるか! てめ……状況を考えろよ!?」
 真冬だ、真冬。しかも夜中。気温は間違いなく氷点下。
 そのうえあたりにひと影はないといっても、歓声は聞こえてきていて、周辺の警備に就いている軍部の人間がどこにいるともわからない。
 寒いからコートをまくるな! と口にした瞬間には、我ながらいささかテンパった言い訳だとも思ったのだ。
 だがしかたない。
 究極の問題はいつだって、これ以上先にアルフォンスから強引な手立てに出られたら、たとえいかなる状況であっても、エドワードの方こそがアルフォンスを絶対に拒みきれないという――自覚がある点に、ある。
「……ダメ?」
 かわいく首をかしげてみても、ほだされるものかと首を振った。
 この野郎、こんな時ばかり弟面を利用しやがって。
「アホか!」
「……せっかくの新年なのに」
 なにがせっかくか。
 賭けてもいい。今現在この弟の頭の中には、絶対、ろくでもない考えが浮かんでいるに違いなかった。
 しばし後、じゃあキスだけ、と――アルフォンスが低く囁く。
 それでも自制を保てるという確たる自信はなかったのだが、そこで頷いてしまったのは、何よりもエドワード自身がそれを欲していたからに他ならない。
「……アル」
「うん?」
「……頼む、から。……お前の方で、手加減……してくれ」

      ☆

 気が付くと花火はすっかり終わってしまって、エドワードはアルフォンスのコートにすっぽりくるまれていた。
 寒い、と姉さんが言ったからだよ、大丈夫?
 アルフォンスはそんなことを言う。くっそ違う。寒いってのは、そういう意味でいったんじゃなくて。
 でも。
 ああ、でも。
「……ちっっっ……くしょう……っっっ」
 コートごとアルフォンスの腕の中、で、エドワードは短く小さく呟いた。
 よりにもよって、キスだけで。
 ――イかされたのは初めてだ。
「……このっ……馬鹿っ」
 加減をしろといっただろうに、なんでこんなことになっているのだ。
 アルフォンスの顔も見返せずに、その胸に顔を埋めたままで言ってみたのはどうにもいたたまれなかったから。
 手袋の大きな掌が、自分の頭を撫でているのが感じられて――なお、どうにも恥ずかしい。
 びっくりした。
 だって、キスしかしていないのだ。
 これは明らかに、自分がおかしいというべきだろう。
 拒んでおいて。拒んだくせに。ありえない。キスで、こんな。
 アルフォンスはいったいどう思ったことだろうか。
 そう思うとたまらない気分になった。冗談じゃない。本当に、冗談じゃない。新年早々――。
 けれどもアルフォンスのしなやかな指先は。
 ふとエドワードの髪をひとふさ掻き上げたかと思うと、その温かさを感じ取れるほど耳のすぐ傍まで唇が降りてきて、
「残りは……温かいベッドでしよう」


 非番でよかった。
 エドワードが結局、その年初日の太陽を、朝陽のうちに拝むことは出来なかったのはいうまでもない。


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これが今年のオレの書初め……orz。
どうだ!(どうだもなにもさ)

リクエストありがとうございました。
お気に召しましたらお持ち帰りくださいましな。
  



『エド姉さん姫初め』
万恒河沙@さかきちか様 2008新春SS企画より
言葉に甘えて強奪、姫初め…ってまだはじまってない気がします御大!(笑)


 
 
 

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