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鮮やかに咲く華よりも
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赤い、華が咲いた、と思った。
灼熱のような熱さなのか、痛みなのか一瞬判らなかったけれど。
確かにエドワードは、赤い華が咲いたのを見た。
その目前にいるのは、自動小銃を構えた見知らぬ男。
――ああ。
撃たれたのか。
ぐにゃぐにゃと歪む視界の中、ぼんやりと認識する。
己の腹部に手を当てると、感じるぬらぬらとした感触。とめどなく溢れる鮮血。
がくりと足を付き、その場にうずくまる。
男たちの声が、どこか遠くで聞こえたような気がした。
――これが?
――随分と呆気ないもんだ。
……うるせぇなぁ。
……ああ、畜生。いてぇ。
薄く目を開き、霞んだ視界の先にある、赤い血だまり。
……俺、死ぬのかな?
……死ぬんだろうな。こんだけ血が出てるんだし。
不意に、ぼんやりとしていたはずの意識が、急速に冴えていく。
……死にたくねぇよ。
瞬間、エドワードの瞳が大きく見開かれた。
……死んでたまるか。
……こんなところで、死んでたまるか!
人の瞳をしていたはずだった。つい先ほど、男の一人に撃たれるまでは。
瞳孔が一気に小さくなり、琥珀色をしていたはずの瞳が、燃えるようにぎらぎらと輝きを放つ。
「……な、に」
男の一人――自動小銃を彼に構えていた者――が、小さく呟いた。
ざわり、空気が変わった。
誰もが、仕留めたと思っていたのだ。つい、先ほどまでは。
だが、違った。
目覚めさせてはいけないものを、呼び覚ましてしまった。
男たちがそう確信したのは、人であらざる獣の姿に変貌したエドワードの鋭い爪が。
銃を構えていた男の身体を、膾のように斬り裂いた直後だった。
「こりゃまた、凄い光景だねぇ」
何とものんびりした口調で、アルフォンスが小さく口笛を吹く。
虫の知らせという奴か、はたまた直感なのかわからないが、何かがエドワードの身に起こっているのだと確信して。
彼の元へと急行してみれば、あたりは惨状となっていた。
切り刻まれた肉。ぶちまけられた臓物。夥しいほどの血。
十何人もの人間だった筈の肉塊が散乱している中心に、エドワードがぼんやりと立っていた。
着ていたシャツもジーンズも、ぼろぼろに千切れていて、高く結い上げていたはずの髪も下ろされている。
しばらくぼうっとしていたはずの彼の顔に、やがて生気が戻ってくる。見知った気配を感じたのか、ゆっくりとこちらを振り向き、少し皮肉っぽく微笑みかけた。
「――よう、アル」
「よう、じゃないよ。……この分だと、また暴走したみたいだね」
「……ん」
呆れた様子で腕を組んだアルフォンスに、エドワードは曖昧に頷いて己の腹部を撫でた。
真っ白だったはずのシャツは、鮮血を吸って赤く変色している。
「……とりあえず、このままそこで突っ立っててもしょうがない。一旦戻って、何とかしないとね」
傷の具合も見なきゃいけないし。と、提案をするアルフォンスに、
「……ん、そだな」
小さく頷いたエドワードは、そこいらに撒き散らかした死体を見ずに歩き出した。
「兄さん、シャツ脱いで」
「ん」
戻った自宅のリビングにて、アルフォンスの指示に素直に頷くと、エドワードはぼろぼろになった服を脱ぎ捨てた。
しなやかな肉食獣を思わせるような、贅肉のない上半身が顕わになる。
「……んと、どの辺を撃たれたの?」
「――ちょうど、臍のすぐ上、かな」
「んー……。やっぱり、銃痕すら綺麗さっぱり消えてる」
「そっか」
注意深く腹部を撫でながら呟くと、エドワードが深いため息をついた。
安堵したのか、それとも――いつものことと諦めているのだろうか。
「困ったもんだよね、兄さんの特異体質も。……今日やってきたあの連中、結局なんだったのさ」
「俺みたいな化け物を、始末しにきたんだろうな」
獣人化――ライカーンスロープ。
この特殊能力が初めて発現したのは、もうだいぶ昔の話だ。兄のエドワードだけが受け継いでしまった呪われた血は、彼自身の生命に危機を察知した場合にのみ発動する。
人として当たり前のように存在する生存本能が暴走し、闘争本能と共に獣の力と姿が顕現する。
超人的なその力は、人の身体を容易く切り刻み、噛み砕き。戦うために磨き抜かれたその体躯は、刃はおろか、拳銃の弾丸すらも通さない。
それどころか、獣人化する前に負った傷でさえ、瞬時に修復してしまうのである。
これを化け物と呼ばずして、なんと呼べというのだろうか。
兄の、自嘲気味に笑う姿さえ、アルフォンスにとっては胸を痛める材料の一つにすぎない。
何故、彼にだけ、呪われた血を受け継いでしまったのか、と。
「……兄さん?」
「ん?」
渡した真新しいシャツをしげしげと眺め、ぽいと背後に放り投げる様を見て、アルフォンスがいぶかしげに兄を呼ぶ。エドワードはちらりとこちらを見ると、少し悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「アル。俺を襲った連中のお偉いさん、奴らの捜索に出ると思うか?」
「かろうじて生存者がいれば、すぐに動くだろうね。とはいえ、今日はもう日が落ちるから、実際には明日以降になりそうだけど」
「でも、獣になった俺から逃げられる奴、っているかね」
「そういう逃げ足の速い奴っているよねぇ。……ま、可能性は低いでしょ」
「だよな」
上半身を惜しげもなく晒したまま、エドワードがアルフォンスの短い金髪を掻き回しだした。こんな動作を楽しげにしている、ということは。
「……おーい」
「んー?しないの、アルフォンスさん?」
「……どーして兄さんってば、獣人化した後はこうも簡単に盛るんだろ……」
「何でかねぇ」
くつくつと笑いながら、エドワードはアルフォンスの額やら頬やらに幾度も口付けを降らせる。しかしながら、その柔らかい感触は、決して嫌な気分ではない。
「いつもはありえないくらい淡白なくせに」
「うるせぇ。ベッドの上じゃお前の方がケダモノだろが」
「うわ、何かその物言い、すっごいキズつく」
「事実だろ」
そりゃそうなんだが。
副作用か何かの効果なのか、獣人と化した後のエドワードは、何故か自分にやたらと触れたがる。いつもはその素振りすらまったくないくせに、どうしてだろうかとアルフォンスはいつも頭を悩ませる。
だが。それしきでいつも悩んでいる暇はない。何せ、極上のご馳走が目の前にぶら下がっている訳で。
黙って見逃すほど、お人好しの性格をしているわけもない。
据え膳食わぬは男の恥。ならば精々、じっくり楽しませてもらうことにしよう。
「――ふ。何か、さあ」
「ん?」
服を脱ぐのももどかしく、触れるのもそこそこに、急ぐように後ろから繋がると、ソファに伏せたエドワードが小さく声を上げた。
「このカッコ、いつもより、奥まできてる感じ、する」
「そりゃ、位置の問題でしょ」
「そっかな……、あ。こら、触るなって」
身体を軽く跳ねさせながら、彼の中心に絡めた指を解こうと手をかけてきた。
難なくかわして、緩やかに扱き始めると、伏せた頭を擦りつけて耐えている。
「……奴らに、撃たれたとき、さあ」
「うん」
何の突拍子もない言葉に、アルフォンスは疑うことなく相槌を打つ。エドワードは苦しそうに荒い息を吐き続ける。それでも、何か伝えたいことがあるのだろう。
「華が咲いた……って、思った、んだ」
「また物騒な華だこと」
「でも、綺麗だって、思って、っ」
指の動きにタイミングを合わせ、自らも動き始める。細い悲鳴を小さく上げて、エドワードがびくんと背中を反らせた。
「そっちよりも、僕はもっと綺麗な華を知ってる」
「ど、んな?」
「後で、教えてあげる」
徐々に動きを早めると、自分に馴染んだ身体は艶やかに踊りだす。アルフォンスを呼びながら、こちらを振り返るエドワードの濡れた瞳と表情が扇情的で、知らず恍惚した笑みを浮かべた。
「ケダモノ」
「どっちが」
喘ぎながら、薄く笑うエドワードに言い返す。欲しいと思うのは彼一人だけだし、兄も欲しいと願っているのは自分ひとりの存在だけだろう。
どっちもどっちなんだから、救われないかな。
でも、悪い気分ではない。
ひとまず目の前の熱に夢中になろうとエドワードの腰を改めて両手で支え、揺さぶる動きをいっそう激しくしてやると、途切れがちだった甘い嬌声が部屋を満たした。
ソファに寝そべる兄を見る。
ひとしきり情事を楽しんだ後、崩れるように眠ったエドワードの長い金髪を指で梳いてやりながら、アルフォンスは先ほどの彼の言葉を胸のうちで反芻する。
華が咲いた、か。
先ほどまでの名残か、着崩れた服装を直しもせずに爆睡するエドワードから聞いた、その言葉。
ふと悪戯心が湧いて、唇を白い首筋に寄せると、少し強めに吸い上げる。
離すと、ぽつんと小さく咲いた、薄紅色。
「僕としては、こっちの華の方が好きなんだよなぁ」
そのことに、兄はいつ気がつくんだろう。
とりあえずソファに寝かせたままだと身体を痛めるな、と思い直し、起こさないように注意を払ってエドワードの軽い身体を抱き上げると、アルフォンスは少し笑みを浮かべてリビングを出た。
怒るか、呆れるかのどっちかだな、と、その時の言い訳を頭の中でシュミレートしながら。
ひいらぎ夏水様に頂きました、獣人兄貴です!!!!!
それはチャットでの出来事でした。いきなり獣人化兄貴話が盛り 上がりあれよあれよという間に宿題となり……
それが貴方こんな素敵なお話に!!!!!(中略)!!!!!
読んだ瞬間日本語変換不可能となりましたよ私!!!!!
もうこいつら大好きだ!!!!
『ケダモノ』『どっちが』ってもー堪らねぇ!!!!!
つーかライカンスロープ兄貴バンザーーーーーーーーーーーイ!!!!!!!!!!!!
などと一人でもんどりうっておりました次第ですよ……!!!!!
早速の掲載許可を賜りましたので、公開いたしますです。
個人的にイメージが曼珠沙華だったのでバック これにしてみたんですが……どうでしょうか。
煮るなり焼くなりと仰っておられたのですがひいらぎさん、兄弟 揃って丸焼きは…アイツら肉少なそうだし筋っぽそうだし(ヲイ/笑)
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