夜更けに目が醒めて。
顔でも洗おうかとバスルームに入ったのが悪かった。

暗がりに映った、自分の───顔。

その表情を見た瞬間、訳も判らず叫びそうになった。
ぐ、と唇を噛みしめることでそれを止めたがココロに走った衝動までは収まらない。
息もつかずに白いタイルの壁を左手で殴りつけた。
ごつ、と嫌な音が反響して響く。
詰まった息を吐き出せば、それは何時しか肩を上下するほどのものとなり。
自分の表情と相まって酷く滑稽に鏡に映った。

なんてカオしてやがんだ、オレは……

怯えた様な、でも恐ろしいと思う程ぎらついた瞳。
ああ、未だ収まりはしないのか。
心に重く黒く広がるその感情がある意味殺意に似たもの。
でも、それはそんな簡単な衝動で誰かの命を奪おうという滑稽な意志思考では無い。
それは、己への殺意衝動。
生きることから逃げ出そうとする己への、警告。
足掻いてでも生きるのだと決めたのだ。
今さら逃げるな、と叫ぶその行き場のない感情の爆発。
左手から伝わる鈍い痛みが感情をここに引き戻す。
破れた皮膚からにじんだ血がそこを赤く染めていた。


ここには、オレを止めてくれるものは誰も存在しない。
止まることを許されるその時を信じ、オレは再び鏡の己を睨みつける。




この衝動を止められるのはただ一人。
お前だけなんだ─────と。




 衝動を止める術をオレは知らない   2004.10.7/改訂:2005.6.30




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