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ご免なさい、エドアル子です。苦手な人は読まんでやって下さい
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  生涯忘れられない、キスを。













「で、何処の世に前夜まで兄貴にべったりな花嫁がいるっていうんだよ」
「ここにいるじゃない」
 くすくす笑い、オレを見るその瞳は幼い頃から何も変わらない。
 だが、明日になればお前は妹、というオレの腕の中にあった場所から旅立っていく。
「ねぇ、兄さん」
 そう、オレを呼ぶ声。
 その声はもはや既にオレだけのものでは無く、お前の手を取り全てを受け止めたあの男、そしてお前達を繋ぐ新たな命の為の、響きで。
 それを思う度オレ達の蜜月は終わったのだと重く思い知らされる。
 いや、オレ達の…ではなく。
 オレにとっての、甘やかな穏やかな。
 お前とのオレだけがひそやかに永遠にあれと願った蜜月は、ようやっと終わりを迎えたのだ。
「全く何時までもそんなんじゃ兄ちゃん困るだろーが…」
「いいじゃない、きょうだいなんだよ?」
 ああ、全く……
 兄妹だから、という強烈なその、刃をオレにいとも簡単に向けて。
 オレの心の内等お前は何も知る事無く、お前は幸せになる。
 まさか、この…世界最強錬金術師だと言われるオレが。
 こんな、焦がれ狂う想いを抱いている等、誰が知り得ようか。

 実の妹に……家族の情念を超えた想いを燃やしているのだ、等と。

 この、オレの目の届く世界の中で。
 お前をずっと見ていられるのだと信じていた。
 だが、心の別の場所で。
 お前がオレから離れ、幸せになる事を願い続けていた。
 結局、叶えられた未来は後者を選択し。
 お前は恋を知って、家族から与えられるものではない愛を……知った。
 お前は、オレだけのものではなかったのだ、と改めて思い知らされ。
 お前にそれを告げられたときオレは酷く喜び…お前に知られない所で落胆したのだから。
「ね、兄さん?何か呑みたいな…」
「あ?お前ね、明日式なんだからジュースで我慢しろ」
「だからじゃ無いか!兄さんに作ってもらうなんてもう当分無いもん。ね?お願い」
「…仕方ねぇな、弱い奴だぞ」
 わぁい、という歓喜の声を受け流し。
 わざと困った顔を作りつつキッチンカウンターに向い、背を向ける。
 本当に、本当に、どうしてお前の手を離したのだろう。
 いっそ無理矢理にでもオレのモノにしておけばこんな想いは無かったのだろうか。
 いや、それは否、だ。
 この手で組み敷いて印を刻み付けてしまうのは、至極簡単な事。
 だが、妹はそれを望むべくも無く。
 何より、望み望まれたものでない限りそれは…悲劇でしかない。
 近親姦通の罪とか、禁忌とか、まあ色々と世間は言うだろうけれども。
 愛し愛され互いが望むならそれは当人に取っては余計な世話でしかないのだから。
 だが、オレたちは互いにそれを望む事も無く、ごく普通の兄妹として生きて来た。
 だが、世間はそう見てくれる人とそうでない者も居て。
 ヤッカミ含めの戯れ言や噂も多かった。
 だが、それは凡人の幻想でしか無く。
 オレと妹は…下世話な世間の雑踏の望む様な事等全く無かったのだから。
「んーと、オレンジと…ジン……で、何作るの?」
「出来てからのお楽しみだ」
 からん、とシェーカーに氷を落とす。
 搾りたてのオレンジに、少なめのジンとオレンジビターを落としてシェーカーを構える。
 からからと耳元で氷が涼やかに鳴り、左の手は急速に冷える金属に痛い程の冷たさを覚え右の手は伝達されるそれに伴って少しだけ神経に冷たさを運んだ。
 ふと見れば、アルフォンスがニコニコとご満悦顔を見せている。
「どうした?」
「だって、格好良いんだもん兄さん」
「そうか?」
「うん、身内の欲目抜いても格好良いの。今迄そういう兄さん独り占めして来たからね…今夜でそれも見納めだから」
 カクテルグラスに注ぎ落としながらクク、と笑って言葉を受け流す。
 お前は、自分がいたからオレが特定の相手を作らなかったと思っているのか?
 お前以外に、こんな姿を見せる事があると思うのか?
 オレは、お前以外見てはいなかったんだ。
 お前はオレを兄としてしか見ていなかったが、オレはお前をオンナとして見ていたのだから。
 仲の良い、幸せを形にしたような、兄妹。
 その均衡を崩していたとしたらそれはこのオレの。
 腐り爛れ、イカレて狂気を歩むこの、心。
 だがこの想いは、生涯誰にも知られる事も無くこの体の内でオレを蝕みいつかきっとオレを朽ち堕とす。
 お前だけをただ盲目に想って、オレはいつしかあの憎むべくして憎む事の出来ぬ、ただ一人真実愛した女だけを想い続け永きを渉った男の様にこの軀と心を腐 らせるのだろう。
 やはり血なのだ、と、一人クツリと喉の奥で凝った嘲笑を、浮かべた。
「ほら、出来たぞ」
「今日のお勧めはなんですか、マスター?」
「マスターゆーなっての…」
 滑る様に差し出したグラスを見て目を輝かせるその姿は、幼い記憶のそれと変わる事の無い姿。
 小さな小さな、オレの妹。
「OrangeBlossom。オレンジの花言葉は『純潔』、そして花嫁のドレスや髪に飾られる花」
 何よりも…誰よりも…この世界全てを天秤にかけても足りない程に愛しいオレの、魂の片割れ。
「お前が永久に幸せであるように…兄ちゃんから最後のプレゼントだ」
「兄さん…少女趣味」
「うるせーよ」
 笑って喉に滑り落とした甘い酒に、美味しいと目を細めるお前の顔を、オレは脳裏に焼き付ける。
「あと兄ちゃんからお前にもう一つ」
「え?」
「帰って…来るなよ、アルフォンシア」
 口から出た言葉は、心とは裏腹だ。
 本当は行くなと叫びたい。
 だが、そんな事は出来ない、出来やしない。
 ここに帰って来たら、今度こそオレは…自分を止められない。
「どうしてもというならそれは仕方の無い事だろう。だけど愛し合って互いにその手を取る限り、二人寄り添って母さんの様に添い遂げてみせろ。兄ちゃんの命 令だ、ここに帰って来れるなんて簡単に思うな…いいな?」
「……う、ん」
「幸せになれ、オレが望むのはそれだけだ」
 見つめていた夜の月のような琥珀の瞳は、言葉を受けて見開かれ…そっと閉じられた。
「……ね、兄さん」
「何だ?」
「大好き」
「…おう」
「一番好き、大好き」
「……それはオレに言う言葉じゃないだろ」
 困惑した顔をしてしまったオレに、妹はすい、と顔を近づけて。
「恋とか愛とかそう言うの飛び越えて…兄さんが、好きだよ…」
 至近距離で発せられた言葉とその意味に一瞬動きを止めてしまったその、瞬間だった。
 何か、甘い香りが唇を掠めて。
 柔らかに触れた、羽毛のようなそれは。
 今迄だって、幾度と無くかわした、キスであった筈なのに。
 何故こんなに胸を─────締め付けるのだろう。
「いままで…いっぱい愛してくれて有難う、兄さん」
 ああ、オレは……
 どんなに願ってもオレには永遠にお前の側にいる事は出来ないと思っていた、のに。
 お前は、それすら簡単に打ちのめしてオレに永遠をくれるのか─────
 そっとそっと、妹の癖の無い滑らかな髪を撫で指で掬い取り、その先にそっと口づけてオレは微笑う。
 それ以上もそれ以下も望む必要の無い、その不可思議な繋がりのままに。
 明日、二人で歩んだその路をオレたちは二つに、分かつ。
 幸福を手に、光の路へと歩んでゆけ、と。
 ただ、願い請うオレだというのに。




 この意識の底には今だ。
 オレンジの甘い香りが、染み付いて─────離れない。


 



 OrangeBlossom  2005.6.18



 
 

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